結論:確認できる理由と、できない理由

よく言われる理由 公表情報で確認できるか
給与に対して中抜き(マージン)が大きい 契約が「労働者派遣」なら一部できる
契約形態が派遣か準委任(SES)か曖昧 できる
案件が終わると次が決まるまで「待機」になる 一部できる
何次請けの案件かわからない できない(公表義務なし)
スキルが身につかない・案件を選べない できない(個々の配属次第)
客先で人間関係に気を使う できない(体感の要素)

「SESやめとけ」という言葉を検索する人が知りたいのは、多くの場合「自分の会社・自分の契約は大丈夫なのか」という個別の疑問です。ところが検索結果の上位はSES企業本人・スクール・転職エージェントが書いた記事が多く、立場上「うちは違う」という結論に寄りがちです。

この記事は営業でも当事者でもない立場から、「やめとけ」と言われる理由のうち、公表されている制度・情報で確認できるものとできないものを切り分けます。判定するのは読者自身です。この記事は照合の手順だけを示します。

① やめとけと言われる理由は何が事実で何が体感か

「SESやめとけ」という言葉でまとめられる不満には、性質が異なるものが混在しています。

  • 契約・制度に根拠があるもの: 中抜き(マージン)の大きさ、待機中の給与の扱いなど。契約書や公表情報と照合すれば、少なくとも一部は確認できます
  • 配属先・上司次第で変わるもの: 案件の選べなさ、スキルが身につくかどうか。同じ会社でも案件によって差が大きく、会社単位の一般論にはしにくい領域です
  • 本人の感じ方によるもの: 客先での気の使い方、帰属意識の薄さ。事実というより体験の評価であり、他人の体験談をそのまま自分に当てはめる根拠にはなりません

「やめとけ」という一言の中に、確認できる話と確認できない話が混ざったまま流通している状態です。この記事で扱うのは前者、つまり契約・制度に根拠があり、公表情報と照合できる部分に限ります。

② なぜ中抜きが見えないのか(派遣とSESの制度差)

IT業界で客先常駐する働き方には、大きく分けて「労働者派遣」と「SES(準委任契約)」があります。この2つは、法律上の扱いが異なります。

指揮命令権の所在が違います。 労働者派遣は、派遣先(客先)がエンジニアに直接指示を出す働き方です。一方、SES(準委任契約)は、客先の作業場所で働いていても、業務の遂行方法についての指揮命令権は雇用元のSES企業側に残ります。客先が直接指示を出す状態は「偽装請負」に問われる要素の一つですが、区分の基準(昭和61年労働省告示第37号)は指揮命令権の所在だけでなく、業務の独立性や設備負担なども含めた複数の要素を総合して判断されるものです。

公開義務があるのは派遣とSES、どちらか

そして、公開義務があるのは労働者派遣だけです。 労働者派遣法第23条第5項により、派遣元事業主は毎事業年度、事業所ごとの派遣労働者数・マージン率(派遣料金の平均額から賃金の平均額を差し引いた割合)などを公開する義務を負います。公開先は自社サイトか、実績がなければ厚生労働省の「人材サービス総合サイト」です。

この義務は労働者派遣法が適用される契約にのみ課されます。SES(準委任契約)は労働者派遣法の対象外であるため、同じ根拠に基づく公開義務がありません。「中抜きが見えない」という不満は、感覚の話ではなく、適用される法律が違うために、公開の仕組みそのものが存在しないという制度上の理由で説明できます。

③ 自分の会社の数字はどこまで公表情報で引けるか

確認したいことごとに、公表情報で引けるかどうかを整理します。

確認したいこと 公表情報で確認できるか どこで・どうやって
自分の契約が派遣かSES(準委任)か できる 雇用契約書・就業条件明示書(派遣の場合は交付が必須)
会社が労働者派遣事業の許可を持っているか できる 人材サービス総合サイトで事業主名称・許可/届出番号から検索
その会社のマージン率(派遣分) 派遣の許可を持つ会社ならできる可能性がある 人材サービス総合サイト、または会社の自社サイトの情報公開ページ
自分の案件が何次請けか できない(公表義務がない) 該当なし。契約書に明記が無ければ本人にも分からない構造
客先が元請けに支払っている単価 できない(公表義務がない) 該当なし
待機時の給与の扱い 一部できる 自社の雇用契約書・就業規則(休業手当は労働基準法第26条)

自分でできるセルフチェック

在籍中・入社前に自分で確認できる7項目
  1. 雇用契約書に記載された契約形態は「労働者派遣」か「準委任」か
  2. 派遣の場合、就業条件明示書に記載の派遣元事業所名・許可番号
  3. 会社名を人材サービス総合サイトで検索し、労働者派遣事業の許可・届出があるか
  4. 許可がある場合、マージン率等の情報公開ページが自社サイトまたは人材サービス総合サイトにあるか
  5. 案件がない期間(待機)の給与の扱いが就業規則にどう定められているか
  6. 客先からの指示を、誰(客先の担当者か、自社の上司か)から受けているか(偽装請負の兆候の有無)
  7. 上記1〜6のうち、社内に聞いても開示・回答が得られない項目がいくつあるか

ここまでの3〜6は会社に確認すれば分かる項目です。確認しても回答が得られない項目が多い場合、それ自体が「その会社が説明できる体制を持っていない」ことの一つの材料になります。

社内で開示が得られず、契約形態やマージン率を自分では確認しきれない場合、社外の第三者に、他社の求人条件と照らして相談する方法もあります。ITエンジニア向けの転職エージェントの中には、求人ごとの契約形態(派遣か準委任か)を確認したうえで紹介する運用のところもあり、比較材料を増やす手段になります。

④ それでもSESが合う人・合わない人

「やめとけ」は一般論であり、③で確認した内容次第で結論は変わります。

留まるという選択肢が成立しやすいケース

  • 契約形態・許可番号・マージン率のいずれも会社に確認でき、内訳の説明もあった
  • 待機中の給与保証が就業規則で明確になっている
  • 客先からの直接指示を受けておらず、自社の上司を通じた指揮命令が保たれている
  • 複数の客先・案件を経験でき、スキルの幅が実際に広がっている実感がある

確認できない項目が多いほど、離れる判断の根拠が積み上がるケース

  • 契約形態を会社に聞いても明確な回答が得られない
  • マージン率や許可番号について「答えられない」「調べていない」と言われる
  • 客先からの直接指示が常態化している(偽装請負の兆候)
  • 待機時の給与保証について就業規則に記載がない、または説明が得られない

確認できる項目をすべて確認し、問題が見当たらなければ、留まるという判断も成立します。 「SESだから一律にやめとけ」という結論にはなりません。

⑤ 確認できなかった場合に取れる選択肢

社内に確認しても回答が得られない、あるいは開示されない項目が残った場合の選択肢は主に3つです。

  1. 人事・上司に書面での回答を求める。口頭での説明は記録が残らないため、メール等でのやり取りにする
  2. 労働局の総合労働相談コーナーに相談する。契約形態の実態が就業条件明示書と食い違う場合や、偽装請負が疑われる場合の相談窓口です
  3. 社外の情報と比較する。同業他社の求人条件、あるいは転職エージェント経由で他社の契約形態・案件内容を確認し、自社の状況が業界内でどの位置にあるかを相対化する

いずれも「今の会社が悪い」と結論づけるための手段ではなく、確認できなかった空白を埋めるための手段です。

⑥ よくある質問

SES自体は違法なのですか。

準委任契約としてのSESそのものは適法な契約形態です。客先が業務の遂行方法について直接指揮命令を行う実態は、労働者派遣に近い状態(偽装請負が疑われる状態)につながる要素の一つですが、区分の基準(昭和61年労働省告示第37号)は指揮命令権の所在に加え、業務の独立性や設備負担なども含めた複数の要素で判断されるため、該当するかどうかは本記事では判定できません。判断が必要な場合は⑤の労働局の総合労働相談コーナーへ相談してください。

マージン率が高い会社は避けるべきですか。

マージン率の高低だけで一律に判断できるものではありません。教育研修費や社会保険料の会社負担分など、賃金以外のコストも含まれるためです。数値だけでなく、内訳を説明できるかどうかを確認材料にしてください。

労働者派遣事業の許可番号がない会社はSESをしてはいけないのですか。

準委任契約であるSES自体には、労働者派遣事業の許可は不要です。許可番号の有無は、その会社が労働者派遣も行っているかどうかの目安にはなりますが、SES契約の適法性そのものを判定する材料ではありません。

人材サービス総合サイトで自分の会社が見つからない場合はどうすればよいですか。

労働者派遣事業の許可・届出を受けていない可能性があります。その場合、その会社が行っているのは労働者派遣ではなく準委任(SES)契約と考えられ、労働者派遣法に基づくマージン率の公開義務の対象外になります。契約形態そのものは雇用契約書・就業条件明示書で確認してください。


社内で開示を得られず、契約形態やマージン率を自分で確認しきれない場合は、社外の第三者に、他社の求人条件と照らして相談する方法もあります。ITエンジニア向けの転職エージェントに、契約形態や案件内容を確認したうえで相談することも、判断材料を増やす一つの手段です。

出典: 労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律 第23条第5項(マージン率等の情報提供義務)、厚生労働省「人材サービス総合サイト」、労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準(昭和61年労働省告示第37号)。いずれも2026年8月23日時点の確認です。