結論:入社前に確認できる失敗と、できない失敗

よく語られる「失敗」 入社前に公表情報で確認できるか
求人票の給与と、実際の手取りが違った(固定残業代など) できる(固定残業代の明示ルールがある)
「正社員」のはずが、契約社員・業務委託だった できる(虚偽の表示は職業安定法で禁止)
提示された年収が「モデル年収」で、実際はもっと低かった できる(モデル年収の表示ルールがある)
配属後すぐ客先常駐になり、聞いていた業務と違った 一部できる(契約形態は確認できるが、配属先までは求人票に出ない)
入社した会社の離職率が高かった 新卒枠なら一部できる(中途採用にはこの制度が及ばない)
実際の業務・技術スタックの詳細が求人票と違った できない(職種名の著しい乖離は禁止されているが、詳細な粒度までは規制対象外)
配属先の人間関係・社風が合わなかった できない(体感の要素)

「エンジニア転職 失敗」「IT未経験 転職 失敗」という言葉で検索する人が知りたいのは、多くの場合「自分がこれから受ける求人は大丈夫か」という個別の疑問です。この記事は、転職エージェントでも採用側でもない立場から、入社前の求人票の段階で確認できる失敗と、確認しても防げない失敗を切り分けます。判定するのは読者自身で、この記事は照合の手順だけを示します。

すでに今の職場を辞めるかどうかで迷っている場合は、判断材料を「SESやめとけ」は何が事実かで先に整理できます。

① 「失敗」の中身は一様ではない

「転職失敗」という言葉でまとめられる後悔には、性質が異なるものが混在しています。

  • 求人票の表示ルールに根拠があるもの: 賃金の内訳、雇用形態の表示など。2022年10月施行の改正職業安定法により、求人情報の「的確な表示」が企業に義務付けられており、入社前に照合すれば防げる可能性があります
  • 契約形態は分かるが、配属先までは分からないもの: 客先常駐が絡む求人では、契約形態(雇用か業務委託か)は求人票で確認できても、実際にどの客先に配属されるかまでは公表されないことが一般的です
  • 本人の相性によるもの: 配属先の人間関係、社風。他人の失敗談をそのまま自分に当てはめる根拠にはなりません

この記事で扱うのは、このうち求人票の表示ルールと照合できる部分です。

② 求人票の「的確表示義務」で何が防げるか

2022年10月1日に施行された改正職業安定法により、求人企業には求人情報の的確な表示が義務付けられています。虚偽の表示、および一般的・客観的に誤解を生じさせる表示をしてはならないとされ、以下のような例が「虚偽の表示」に該当し得ると、厚生労働省のリーフレットで具体的に示されています。

  • 実際に募集を行う企業と別の企業の名前で求人を掲載する
  • 「正社員」と謳いながら、実際には「アルバイト・パート」の求人だった
  • 実際の賃金よりも高額な賃金の求人を掲載する

賃金表示についても具体例が示されています。モデル年収を必ず支払われる金額であるかのように表示してはならないとされ、「【給与】400万円〜600万円【モデル給与】555万円(同職種社員の給与の平均を例示)」のように、実際の支給レンジとモデル額を区別して示すことが求められています。

労働条件の明示は、的確表示義務とは別に必要

的確表示義務は求人「情報」の話であり、これとは別に、個別の応募者と最初に接触するまでの時点で労働条件を明示する義務(職業安定法第5条の3)が従来どおり存在します。求人票の記載と、選考の過程で個別に示される労働条件が食い違う場合、その時点で確認する余地があります。

③ 固定残業代のチェック方法

「求人票の給与と手取りが違った」という失敗の多くは、固定残業代(みなし残業代)の表示に関わります。固定残業代制を採用する場合、募集要項や求人票には次の3点すべての明示が求められています。

  1. 固定残業代を除いた基本給の額
  2. 固定残業代に関する労働時間数と金額の計算方法
  3. 固定残業時間を超える時間外労働に対して、割増賃金を追加で支払う旨
求人票で確認する3つのポイント
  • 「月給◯◯円」のように基本給と手当が一体で書かれていないか(本来は分けて書く必要があります)
  • 固定残業代が「◯時間分」と時間数まで明記されているか
  • 超過分の追加支給について記載があるか

3点のいずれかが欠けている求人票、あるいは基本給と固定残業代が分離されずに「月給」とだけ書かれている求人票は、面接時に基本給の金額を個別に確認する価値があります。

④ 新卒枠と中途採用で、確認できる情報の差

「入社した会社の離職率が高かった」という失敗について、公表情報から事前に確認できるかどうかは、新卒採用と中途採用で扱いが異なります。若者雇用促進法第13条により、新卒者等を対象とした募集を行う企業は、求職者から求めがあった場合、平均勤続年数・離職者数・研修の有無などの職場情報(3つの類型のうちいずれか1つ以上)を提供する義務があります。

この制度は新卒者等の募集に限定されており、中途採用には及びません。「未経験エンジニア」向けの求人であっても、新卒枠でなければこの情報提供義務の対象外であり、離職率のような定着状況を制度上確認する手段は限られます。

⑤ それでも確認できない失敗

求人票の表示ルールを照合しても、次のような失敗は事前には確認できません。

  • 配属先の実際の業務内容の詳細な粒度(職種名の著しい乖離は禁止されていますが、業務の細かい実態までは規制対象外です)
  • 客先常駐案件の場合、入社時点でどの客先に配属されるか
  • 配属先の人間関係・チームの雰囲気
  • 自分がその技術スタック・業務内容に実際に合っているかどうか

確認できる範囲をすべて確認したうえで、それでも入社後に判明する要素は残ります。その場合の失敗は、求人票の表示義務違反ではなく、性質の異なる不確実性として扱う必要があります。

⑥ 入社前セルフチェック

選考中に確認できる5項目
  1. 求人票の給与欄で、基本給と固定残業代(手当)が分けて書かれているか
  2. 固定残業代がある場合、時間数と超過分の扱いが明記されているか
  3. 雇用形態が「正社員」「契約社員」「業務委託」のどれとして書かれているか、面接で明言されるか
  4. 客先常駐が絡む場合、配属先の決定時期と本人の意向がどこまで反映されるか
  5. 新卒枠であれば、平均勤続年数などの職場情報の提供を求められるか

これらは会社に確認すれば分かる項目です。確認しても曖昧な回答しか得られない項目が多い場合、それ自体が確認材料になります。

⑦ よくある質問

求人票と違う条件を提示されたら、断ってもいいですか。

可能です。職業安定法第5条の3に基づく労働条件の明示は、個別の応募者と最初に接触する時点で必要とされており、求人票の記載と食い違う場合は、その時点で確認・交渉する余地があります。

「モデル年収」と書かれた求人は避けるべきですか。

モデル年収の表示自体は禁止されていません。禁止されているのは、モデル年収を必ず支払われる金額であるかのように表示することです。実際の給与レンジ(例〜600万円)が別途示されているかを確認してください。

固定残業代の記載に不備がある求人を見つけたら、どこに相談できますか。

ハローワークに求人を出している場合はハローワークへ、民間の求人媒体経由の場合は運営会社への申出のほか、労働局の総合労働相談コーナーに相談する方法もあります。


選考段階で求人票の記載と実際の説明が食い違う場合、社外の第三者に確認してもらう方法もあります。ITエンジニア向けの転職エージェントの中には、求人ごとの雇用形態や賃金体系を確認したうえで紹介する運用のところもあり、比較材料を増やす手段になります。

出典: 職業安定法第5条の3・第5条の4(労働条件等の明示、求人情報の的確な表示)、厚生労働省リーフレット「労働者の募集ルールが変わります」(2022年10月1日施行)、青少年の雇用の促進等に関する法律第13条(若者雇用促進法)、厚生労働省リーフレット「固定残業代を賃金に含める場合は、適切な表示をお願いします」。いずれも2026年8月24日時点の確認です。