結論:SES営業について言われる理由と、確認できるか

よく言われる理由 公表情報で確認できるか
「人売り」「中抜き」と言われる商流の多層化 業界構造としては確認できる(公正取引委員会が実態調査を公表。個社の商流は非公表)
ノルマ・稼働率至上主義がきつい できない(会社ごとの制度、公表義務なし)
離職率が高いと聞く 上場企業なら一部確認できる(有価証券報告書の「平均勤続年数」)
客先と技術者の板挟みになる できない(体感の要素)
下請法違反すれすれの取引を強いられる 業界共通の懸念点としては確認できる(公取委調査の指摘事項。個社の違反有無は非公表)

「SES営業やめとけ」で検索する人には、SES企業の営業職への転職を検討している人と、すでにその職に就いていて辞めたい人の両方がいます。この記事は、SES営業という仕事にまつわる評判のうち、公表情報で裏付けられる範囲を切り分けます。判定するのは読者自身です。

① SES営業という仕事は何をしているのか

SES(準委任契約)は、客先に技術者を提供し、稼働(就業)した時間や成果に応じて対価を得る契約です。SES企業の営業職は、主に次の業務を担います。

  • 客先(発注元)の案件を見つけ、自社の技術者を提案する
  • 自社の技術者の稼働状況(アサイン状況)を管理し、案件が終わった技術者の次の配属先を探す
  • 契約条件(単価、契約期間、業務内容)を客先と交渉する

準委任契約の性質上、技術者が稼働していない期間(待機)は会社の売上に直結しないため、稼働率(アサイン率)を上げることが営業の評価に強く結びつきやすい構造があります。ただし、評価制度そのものは会社ごとに異なり、公表義務もありません。

② なぜ「人売り」と言われるのか(多重下請け構造)

IT業界、特にソフトウェア開発・SES業界では、発注元(元請け)から一次下請け、二次下請けへと業務が再委託されていく多層的な商流が存在することが、公的機関の調査で確認されています。

公正取引委員会の実態調査で分かること

公正取引委員会が2022年に公表した「ソフトウェア業の下請取引等に関する実態調査報告書」では、細分化と再委託の繰り返しで商流が多層化・複雑化し、極端に長い商流が形成される場合があると指摘されています。 同報告書では、下請法上の懸念点として「買いたたき」や「仕様変更への無償対応要求」が挙げられています。

「人売り」という評判は、SES営業という職種そのものの評価ではなく、業界全体の商流の多層化という構造的な背景があります。ただし、個々のSES企業がこの構造の中でどう振る舞っているか(買いたたきに関与しているか等)は、公表情報からは分かりません。

③ 会社の定着率をどこまで公表情報で確認できるか

確認したいこと 公表情報で確認できるか どこで・どうやって
その会社の平均勤続年数 上場企業ならできる 有価証券報告書「従業員の状況」(金融庁EDINETで閲覧可能)
営業職だけの離職率・定着率 できない 有価証券報告書の数値は全社員の平均であり、職種別には出ない
非上場企業の平均勤続年数 できない 公表義務がない
何次請けの案件が多い会社か できない 公表義務がない
労働者派遣事業の許可も持っているか(SESと派遣を併用する会社か) できる 人材サービス総合サイトで事業主名称から検索

有価証券報告書は、上場企業に開示が義務付けられている書類です。 金融商品取引法に基づく開示府令により、提出会社の従業員数・平均年齢・平均勤続年数・平均年間給与(賞与含む)を記載することが求められており、金融庁の「EDINET」で誰でも閲覧できます。

④ それでもSES営業が向いている人・向いていない人

留まる・目指すという選択肢が成立しやすいケース

  • 客先との条件交渉や、複数の技術者のマネジメントに前向きに取り組める
  • 会社が上場していて有価証券報告書を確認でき、極端に短い平均勤続年数ではない
  • 商流上の立場(元請けか下請けか)を会社が明確に説明できる
  • 稼働率だけでなく、技術者の希望条件を考慮した配属調整の仕組みがある

確認できない項目が多いほど、離れる判断の根拠が積み上がるケース

  • 会社が何次請けの案件を多く扱っているか、聞いても答えが得られない
  • 稼働率のノルマだけが評価基準で、技術者の希望が反映される仕組みがない
  • 上場企業なのに平均勤続年数の開示内容を会社が説明できない、または極端に短い

「SES営業だから一律にやめとけ」という結論にはなりません。業界構造として確認できる点と、会社ごとに確認すべき点を分けて判断することができます。

⑤ よくある質問

SES自体が「労働者供給」にあたり違法なのではないですか。

職業安定法第44条は、他人の指揮命令を受けて労働に従事させる「労働者供給事業」を原則禁止していますが、これは主に労働者派遣法の許可を得ずに二重派遣的な形態で労働者を提供する行為を指します。SES(準委任契約)は、業務の遂行方法についての指揮命令権が雇用元に残ることが前提の適法な契約形態であり、それ自体が労働者供給にあたるものではありません。ただし、客先が直接指示を出す実態があれば偽装請負が疑われる状態になり得ます。判定基準は「SESやめとけ」は何が事実かで扱っています。

平均勤続年数が短い会社は避けるべきですか。

数値の高低だけで一律に判断できるものではありません。事業の立ち上げ期で在籍者の勤続年数が全体的に短い会社もあれば、成長に伴う中途採用の増加が数値を押し下げている会社もあります。数値そのものより、会社がその数値の背景を説明できるかどうかが確認材料になります。

非上場のSES企業の実態はどう確認すればよいですか。

非上場企業には有価証券報告書の開示義務がないため、平均勤続年数などを公表情報から確認することはできません。労働者派遣事業の許可を持つ会社であれば、人材サービス総合サイトでマージン率等の情報公開の有無を確認できる場合があります。


会社選びや商流の実態について、社外の第三者に相談する方法もあります。ITエンジニア向けの転職エージェントの中には、紹介する求人企業の事業内容や取引形態を確認したうえで案内する運用のところもあり、比較材料を増やす手段になります。

SES企業で働くエンジニア自身の悩みについては、「SESやめとけ」は何が事実かで、マージン率の公開制度など制度面の確認手順を扱っています。

出典: 公正取引委員会「ソフトウェア業の下請取引等に関する実態調査報告書」(2022年6月29日公表)、職業安定法第44条(労働者供給事業の禁止)、金融商品取引法に基づく企業内容等の開示に関する内閣府令(有価証券報告書の様式)、厚生労働省「人材サービス総合サイト」。いずれも2026年8月23日時点の確認です。